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知っておきたい「社会保険適用拡大 既に対象の企業も確認が必要です!」

専門家コラム

最終更新日:2024/8/ 6

寄稿者:北條 孝枝(株式会社ブレインコンサルティングオフィス・社会保険労務士)

社会保険適用拡大により、2024年10月1日から、社会保険の被保険者数が51人以上の企業では、週20時間以上の勤務をしている従業員を社会保険に加入させなければなりません。

対象となる従業員にそのことを説明し、場合によっては、労働時間等の条件について話し合い、新たな労働条件で労働契約を交わすことが必要となることもあります。また、複数の事業所で被保険者となる場合は、二以上勤務者となるため、社会保険の手続きが複雑になります。既に特定適用事業所となっている企業では、自社で短時間労働者として被保険者となっている方が新たに二以上勤務者に該当するケースも出てきます。対象者への説明や進め方を含め、実務対応のポイントを解説します。

二以上勤務者:同時に2カ所以上の会社で社会保険に加入している状態を指します。複数カ所でパートをしている場合、該当する可能性があります。

改正のポイント

1.対象となるのは社会保険の被保険者数が51人以上の企業等

社会保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となることが見込まれる企業等(「特定適用事業所」という)が対象となります。

被保険者数は毎月変動しますが、月末の被保険者数が、過去1年のうち6か月以上、基準を超える事業所が該当します。法人事業所の場合は、同一法人格に属する(法人番号が同一である)すべての適用事業所の被保険者の総数、個人事業所の場合は適用事業所単位にカウントします。

2.加入対象(短時間労働者)の要件

下記のすべての条件を満たす短時間労働者が加入対象となります。

  • 労働時間要件・・・所定労働時間が週20時間以上
  • 賃金要件  ・・・所定内賃金が月額8.8万円以上
  • 勤務期間要件・・・2か月を超える雇用の見込みがあること
  • 学生でないこと

3.除外する賃金の確認

被保険者となる条件の8.8万円の月額賃金から、以下の賃金は除外することとなっています。社会保険の標準報酬月額の算定基礎届や月額変更届で対象とする賃金額とは異なりますので、被保険者に該当するか否かの判断をする際には、除外する賃金額も確認する必要があります。

  • 臨時に支払われる賃金および1月を超える期間ごとに支払われる賃金(例:結婚手当、賞与等)
  • 時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金(例:割増賃金等)
  • 最低賃金法で算入しないことを定める賃金(例:精皆勤手当、通勤手当、家族手当)

4.対応の手順

  1. 対象者の洗い出し
    1. 賃金要件(月8.8万円以上)に当てはまる従業員を抽出する
    2. 上記のうち、週労働時間が20時間を超える従業員が対象となる

      労働契約上は週20時間未満であるが、たまたま20時間を超える月がある場合は対象とはならない

  2. 増額する人件費シミュレーションを行う(個人別・企業全体)
    1. 個人別に
      • 現状のまま社会保険に加入した場合の手取り額を確認する(社会保険料・税の控除額も含めて試算する)
      • 現状の手取り額を維持するために増やす労働時間についてもあわせて算出する
    2. 企業として
      • 1.で算出した個人別の給与と、社会保険料の会社負担分も含めた人件費を算出する
  3. 対応方針の決定
    対象者が51人前後の場合は、
    • 対象者が社会保険加入することを前提に売上増を図ったり、生産性をアップさせる
    • 社会保険加入の対象とはならない人員を増やして対応する
    等の方針を決める

  4. 社内への周知
    特定適用事業所になることで、条件に該当する従業員は社会保険加入の対象となること、労働時間変更の希望について面談を行う、あるいは本人から申し出るように周知する

  5. 対象者へ個別に意向を確認する
    1. 雇用保険を外れても社会保険は家族の扶養のままでいたい
      労働時間が減り、雇用保険を外れることで、離職時や育児介護の給付金も受けられなくなることも承知しているかどうかを本人に確認する
    2. 被保険者となり、労働時間を増やしたい

      社会保険に加入することで生じる社会保険料の控除により、手取り賃金は減少することを本人に確認する

  6. 新たな労働条件を交わす

二以上勤務者への対応

既に特定適用事業所に該当している企業も、新たに特定事業所となる企業に勤務していて他社でも被保険者となる複数事務所勤務者がいる場合は、注意が必要です。

被保険者が同時に複数(2カ所以上)の適用事業所に使用(勤務)されることとなった場合、被保険者の届出により、主たる事業所を選択し、管轄する年金事務所または保険者等を決定します。標準報酬月額は、それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算して決定します。保険料額は、その標準報酬月額からそれぞれの事業所で受ける報酬月額に基づき按分し、決定されます。決定した標準報酬月額および保険料額は、選択した事業所の所在地を管轄する保険者から、それぞれの事業所へ通知されます。

短時間労働者には、他の事業所で社会保険の被保険者になっていないか確認し、該当する場合は二以上事業所勤務届の手続きが必要になることを説明して、手続きを進めていきましょう。

二以上勤務者の月変・算定・賞与・育児休業に係る手続

社会保険の届出については、二以上勤務者であっても他の被保険者と同様に、事業所単位で要件該当性等を判断します。他の事業所での報酬額や、賞与支払回数を合算したりする必要はありません。ただし、年間・同月の賞与合計額での合算については、選択した保険者が判断し、保険料を決定するため、自社の賞与計算で算出した保険料と異なるケースがあります。その場合は、精算が必要となることもあるので注意しましょう。

また、育児休業中の保険料免除の条件も自社での育児休業の実態で判断します。下図のように、特に短期の育児休業をしているケースでは、被保険者単位ではなく、事業所単位での判断になることを、対象従業員に説明しなければなりません。実務担当者は、制度について、理解を深めておきましょう。

制度拡大により、社会保険の適用対象となる短時間労働者は、20万人と推計されています。(参照:第4回社会保障審議会年金部会 2023年5月30日資料

10月より特定適用事業所となる企業では、現在、雇用保険の被保険者となっている短時間労働者と10月以降の労働契約をどうするのか、前もって話し合う必要があります。社会保険に加入することで減少する手取り賃金を増やすために労働時間数を増やすのか、あるいは、世帯収入を考えて雇用保険に加入できない週20時間未満の労働時間数とするのであれば、新たな人材の採用検討も必要となってくるかもしれません。また、二以上勤務者がいる場合は、別途手続きが必要となります。労働契約に関することですから、早めに対応を進めていきましょう。

筆者プロフィール

北條 孝枝(ほうじょう たかえ)

株式会社ブレインコンサルティングオフィス 社会保険労務士

メンタルヘルス法務主任者

会計事務所で長年に渡り、給与計算・年末調整業務に従事。また、社会保険労務士として数多くの企業の労務管理に携わる。情報セキュリティについての造詣も深く、実務担当者の目線で、企業の給与、人事労務担当者へのアドバイスや、業務効率化のコンサル等に取り組むとともに、実務に即した法改正情報、働き方改革などの企業対応に関する講演も多数行っている。

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