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知っておきたい 2025年の年末調整への影響は?所得税・健康保険扶養の「年収の壁」の改正ポイント

専門家コラム

最終更新日:2025/5/27

寄稿者:北條 孝枝(株式会社ブレインコンサルティングオフィス・社会保険労務士)

2025年度の税制改正では、「年収の壁」の引き上げや、大学生年代の子を扶養対象にできる条件の変更がありました。「130万円の壁」という社会保険の壁についても、2025年10月に大学生年代の健康保険の被扶養者の条件が変更される予定です。これらが企業の実務へ与える影響と対応のポイントについて解説します。

「税の壁」と「社会保険の壁」の整理

「年収の壁」を見直した2025年の所得税法改正を理解するため、前提となる「税の壁」と「社会保険の壁」について改正後の金額を整理すると以下のようになります。

年収 概要
106万円 社会保険 社会保険特定適用事業所(被保険者数51人以上の適用事業所)に勤務しており、毎月決まって支払われる固定的賃金(残業代・通勤手当・賞与等は除く)が月8.8万円以上になる場合、社会保険の被保険者となるため、保険料の負担が生じる
123万円
(改正前103万円)
年間収入が123万円を超えた場合、所得税が本人に段階的に賦課される
130万円 社会保険 家族の社会保険の扶養となっている被扶養者の年間収入の見込額が130万円以上となった場合、社会保険の扶養から外れ、自身で国民年金(配偶者の場合)・国民健康保険の保険料の負担が生じる

19 歳以上23歳未満の被扶養者(被保険者の配偶者を除く)については、150万円以上となる(2025年10月1日に取り扱い変更予定)

160万円
(改正前150万円)
配偶者(特別)控除の対象となっている配偶者の年間収入が150万円を超えた場合、配偶者(特別)控除を受けている者の控除額が段階的に減少する

上記の年収(収入)について、押さえておかなければならない重要なポイントは、「税」と「社会保険」では対象とする収入が違う、という点です。

  • 「税」で対象とする収入
    課税収入(給与以外の事業や退職金も含む)、通勤手当等の非課税収入は含まない
  • 「社会保険」で対象とする収入
    通勤手当・健康保険の給付金・雇用保険の給付金等の非課税収入も含む

たとえば、130万円の収入があり、その内訳が、課税収入(給与)103万円、非課税収入(通勤手当)27万円 であった場合、「税」では103万円なので非課税となりますが、「社会保険」では130万円の収入となるため 社会保険の扶養の対象外となります。この違いが、「税」では扶養対象になる家族が「社会保険」では扶養対象にならない、という状況を生みます。年末調整や社会保険の手続きで間違いがないように注意しましょう。特に、2025年の税制改正で特定親族特別控除が創設された目的が、大学生年代の就業調整への対応であることから、19歳以上23歳未満の健康保険の被扶養者の認定条件は、2025年10月1日から年収150万円未満として取り扱うことが予定されています。(2025年5月19日現在)

改正された所得税法のポイント

「年収の壁」に関する主な改正ポイントをまとめると、次のとおりとなります。

  1. ① 「103万円の壁」を基礎控除で10万円、給与所得控除の上限を最大10万円引き上げ(給与収入190万円以下の場合)ることにより、基礎控除58万円+給与所得控除65万円=123万円にする
  2. ② 基礎控除には特例として37万円の加算があり、最高160万円(基礎控除95万円+給与所得控除65万円)までを非課税とする
    なお、特例の時限措置として、2025・2026年は5万円から30万円の段階的な控除を設ける
  3. ③ 大学生世代(19歳以上23歳未満)の扶養親族については、合計所得123万円以下までは、特定親族特別控除として段階的に控除する
    (大学生年代の者が他の所得者の同一生計配偶者と青色事業専従者等の場合を除く)
  4. ④ 所要の措置として、同一生計配偶者・扶養親族の合計所得要件、ひとり親の生計を一にする子の総所得金額等の合計額の要件、勤労学生の合計所得要件等を10万円引き上げる
  5. ⑤ 家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例について、必要経費に算入する金額の最低保障額を10万円引き上げて65万円とする

①と②について、所得者本人の合計所得金額と基礎控除額を改正の前後で比較すると図表1のようになります。

③と④は、所得者本人が勤労学生の場合と、親族を扶養対象とできるかの判断基準として、扶養対象親族の合計所得額を引き上げる改正です。

特に大学生年代の扶養親族については、合計所得が58万円を超えても123万円までは段階的に控除が受けられる特定親族特別控除が創設されました。改正後の合計所得金額と控除額は図表2のようになります。

2025年の年末調整

改正法は、2025年度分の所得税に対して適用されますが、原則として12月1日に施行されます。実務上は、2025年に支払う給与等は改正前の税額表を用いて源泉徴収を行い、12月の最終の給与(賞与)で行う年末調整において、改正法に基づき所得税の確定をすることになっています。

年の途中での退職者に対しては、改正前の税制で源泉徴収した結果の源泉徴収票を発行します。2025年については、税制改正への対応は年末調整のみとなります。

2026年での変更点

2026年の月々の給与・賞与等では、2025年改正を反映した「給与所得の源泉徴収税額表」を用いて所得税の源泉徴収を行います。2025年は、年末調整のみで対応する特定親族特別控除についても、所得の見積額が100万円以下であれば、2026年からは、給与・賞与の計算の都度、源泉対象親族としてカウントできるというものです。そのため、2026年の扶養控除等異動申告書には、特定扶養親族に加えて特定親族も記載され、所得の見積額についての確認が必要になります。

その他に1年限りの時限措置として、以下が2026年の年末調整に影響してきます。

  • 23歳未満の扶養親族を有する場合、生命保険料控除額の計算方法において、一般生命保険料控除額を4万円から6万円に引き上げる。ただし、控除額の合計12万円は変わらない。
  • 子育て世代が2025年中に居住した場合の住宅借入金控除の特別措置

また、2026年1月1日以降に支払う退職金について、源泉徴収の計算方法と提出範囲の変更がありますので、退職金の支払いを予定している場合は、確認しておきましょう。

年末調整に向けての情報収集

給与・年末調整のご担当者は、税・社会保険のそれぞれの「壁」の要件をおさえ、従業員の方からの問い合わせに対応できるようにしておかなければなりません。

2025年は、特定親族特別控除の確認のため、年末調整で新たに「給与所得者の特定親族特別控除申告書」が追加になります。現行の申告書と兼用になり様式変更がされます。また、源泉徴収票も記載項目が増えることで様式変更が確定しています。

財務省・国税庁からは、給与計算や年末調整での源泉徴収についてのパンフレットやQ&Aが随時公開されることになっています。新たな控除の創設もありますので、実務対応で不明な点がないように情報収集をしていきましょう。

国税庁:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について

https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm

筆者プロフィール

北條 孝枝(ほうじょう たかえ)
株式会社ブレインコンサルティングオフィス 社会保険労務士
メンタルヘルス法務主任者

会計事務所で長年に渡り、給与計算・年末調整業務に従事。また、社会保険労務士として数多くの企業の労務管理に携わる。情報セキュリティについての造詣も深く、実務担当者の目線で、企業の給与、人事労務担当者へのアドバイスや、業務効率化のコンサル等に取り組むとともに、実務に即した法改正情報、働き方改革などの企業対応に関する講演も多数行っている。

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