知識のツボ 適正価格を実現するための、取適法と原価管理
最終更新日:2026/06/22
2026年1月から、「取適法(中小受託取引適正化法)」が施行されました。この法律は、中小受託事業者が公正な取引を通じて適正な利益を確保することを目的としています。
近年は、原材料やエネルギーコスト、人件費の上昇が続く一方で、十分な利益を確保できずに経営が圧迫されている中小事業者も少なくありません。とはいえ、「苦しいから」と情に訴えるだけの価格交渉は難しいでしょう。適切にコストを反映させるには、その根拠となる数値を整え、調整を進めていくことが重要です。
そこで、適正な価格交渉を行う手段として、「原価管理」を始めてみませんか。
あらためて取適法とは?
正式名称は、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。
その目的は、
- 中小受託事業者が発注者から不公平な扱いを受けることを防ぐ
- 取引の公正化を促進する
- サプライチェーン全体で適正な価格転嫁を実現し、中小企業の利益保護を強化する
ことであり、中小受託事業者からの協議に応じない発注者の一方的な代金決定は禁止となっています。
中小企業の価格転嫁の状況
小企業庁は年に2回、中小企業における価格交渉・転嫁の状況を調査しています。2025年9月の調査(約30万社)では、「一部でも価格転嫁できている」という回答が83.2%でした。コストの上昇分を販売価格に反映できた割合を示す転嫁率は53.5%なので、コスト増加分のうち約半分しか価格に反映できていないということです。しかし1年前の調査では49.7%だったので、微増ながらも状況は好転している様子がうかがわれます。
ただしその状況は業種によってばらつきがあり、改善が進む分野もあれば、依然として厳しい分野も見られます。製造業・建設業が改善傾向にある一方で、トラック運送業をはじめとした一部のサービス業については悪化している模様です。価格転嫁率の乖離が2倍近い業種もあり、その差は拡大しています。
なぜ「原価の把握」が重要なのか?
取適法の施行により、受託事業者には「発注者と価格について協議する権利」が正式に認められています。この権利を活かすには、「なぜこの価格になるのか」を合理的かつ客観的な数値で説明できることが不可欠です。そのための仕組みが原価管理です。
製品原価は、材料費/加工費・外注費/労務費(人件費)/間接費(エネルギー費・管理費など)に分解し、可視化することで把握できます。しかしそれらの数値の根拠が、担当者の経験や勘、個別管理のExcelであるがゆえに、客観的な説明が難しい場合が多々あります。その結果、価格協議に踏み込むことができずに、低い価格での取引が続いているケースもあるでしょう。また、最近の物価上昇を受けて、当初の見積りと実際に発生した費用の乖離が起きがちです。「全体で〇%上昇した」という説明にとどまらず、材料費や労務費、エネルギー費などの上昇率や要因を分解してその裏付けを示すことで、交渉の納得性も高まるでしょう。
一方で、人件費の一部や設備維持費、減価償却費などの固定費の増加に対しては、短期的な削減は難しい面があります。しかし、稼働率や配賦基準を明確にして、不可避なコストであることの説明が合理的にできれば、単なる値上げではないことを協議でも理解されやすくなります。
Excelや台帳による管理であっても、整備されていれば「根拠のあるデータ」として活用できます。ただし、手作業に依存した運用では日常業務への負担が増加するため、継続性に課題が残ります。だからこそ、誰でも同じ基準で説明できる原価データを効率的に蓄積・更新できる仕組みが重要なのです。
取適法×原価管理の活用
取適法の趣旨は、「合理的な根拠のない価格抑制を防ぐこと」にあります。原価の内訳を明確にし、その妥当性を説明できる状態を整えることが今後はますます不可欠となってきます。これは価格交渉に役立つだけでなく、不採算取引の早期発見や改善にもつながります。
原価管理を単なる業務にとどめず、取適法のもとで適正価格を実現するための「有効なアプローチ」として活用することが、これからの取引におけるカギとなることでしょう。
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