ちょこ解 ちょっと気になる、賃金のデジタル払い
最終更新日:2024/11/ 8
2023年4月1日に施行された労働基準法施行規則の改正により、「賃金(給与)のデジタル払い」が可能になりました。現金払い、銀行口座への振り込みに加え、3番目の選択肢としてデジタルマネーでの支払いができるようになります。
「賃金のデジタル払い」とは
労働基準法では、「賃金は原則として通貨で支払うこと」としています。しかし、従業員が同意した場合は、銀行口座への振り込みが認められています。現在では、大半の企業は銀行口座に振り込んで支払っていることでしょう。今回の改正では、
- キャッシュレス決済の普及により、チャージが不要なデジタルマネーで受け取りたいというニーズ
- 銀行口座を持たない外国人労働者へのスムーズな支払い
- 短期雇用労働者など多様な働き方への対応
といった要因を背景に、「賃金のデジタル払い」が可能となりました。賃金のデジタル払いとは、銀行口座ではなく、厚生労働大臣が指定する資金移動業者の口座に振り込むことです。
賃金のデジタル払いは、企業あるいは従業員本人にとって、以下のような効果が期待できます。
- 現金引き出しや決済アプリへのチャージの手間が省ける(従業員のメリット)
- 振込手数料の削減が見込まれる(企業のメリット)
- 従業員からの要望に柔軟に対応する企業として、社員満足度や企業イメージの向上(企業のメリット)
ただし、デジタル払いと従来の銀行口座振込が発生するため、双方の振込手続きや確認作業の二重管理といった作業が必要になると想定されます。
2024年8月9日に、初の指定資金移動業者としてPayPay株式会社が登録されました※。「PayPay給与受取」は、当初はソフトバンクのグループ企業を対象として運用を開始し、11月5日より対象企業は限られますが、一般企業向けサービスも開始しています。
2024年8月9日時点で、指定申請審査中の資金移動業者は3社
現時点での市場の動向
指定資金移動業者の登録、および資金移動サービスは開始されましたが、一般企業向けのサービスはまだ全面的に開始されていないこともあり、市場での動きは、現時点ではほとんど見られません。そのような状況の中で、2024年10月に実施された帝国データバンクのアンケートによると、導入に前向きな企業は、「振込手数料の削減」「事務手続きの削減」を期待しています。一方、導入予定がない企業は、その理由として「業務負担の増加」、「セキュリティリスク」をあげています。
導入に対しての判断材料として、「事務手続きの削減」「業務負担の増加」という相反する理由があがってくる状況からも、「賃金のデジタル払い」というサービスに対する情報の理解に課題があるようです。企業が具体的に導入の検討を始めるのは、この制度の内容が周知されてからなのかもしれません。
導入に際して企業が行うべき事前準備
賃金のデジタル払いは義務ではなく、あくまでも支払い方法の選択肢が増えた、という位置付けです。また、デジタル払いを導入した場合も、希望しない従業員に強制することはできません。
将来的に支払い方法としてデジタル払いを導入する可能性もありますので、どのような準備が必要か確認しておきましょう。
- ●導入する指定資金移動業者の選定
-
- 口座の受け入れ上限額や、手数料等を確認する
- ●労使協定の締結、就業規則の改定
-
- デジタル払いの対象となる従業員やその範囲、取り扱う資金移動業者を明確にする
- 就業規則に賃金の支払い方法が記載されている場合は、デジタル払いを追加する
- ●従業員への説明
-
- これまでの支払い方法に加え、デジタル払いという選択が増えたことの説明を行う
- デジタル払いを選択する場合の手続き等、必要事項を説明する
- ●希望する従業員からの同意書取得、振込に必要な情報の収集
-
- 個別に同意書を取得すると同時に、賃金振り込みを行う口座情報や金額等の情報を収集する
- 取得した同意書、および収集した情報を保管する
システムで考慮しておきたいこと
賃金のデジタル払いを導入した場合には、上記の通り、従業員への説明会の案内や同意書、必要情報の収集といった作業が随時発生します。その対応策として、説明会当日に説明資料を配布する。同意書や必要情報の収集には記入用紙を用意して、ファイリングして管理する。という方法もありますが、セキュリティリスクやペーパーレス化の観点からも、ワークフローやドキュメント管理といったシステムを用いて業務を効率化することを検討すべきでしょう。
現在使用している給与システムの給与振込が、複数口座に対応しているかどうかも必ず確認しておきましょう。もしも、支払口座の設定が1件しか選択できない場合は、デジタル払いと銀行口座、といった複数口座への振り分けに対応できない可能性があります、ご注意ください。
賃金のデジタル払いの導入を決めてから、これらの準備を考え始めるのでは、タイミング的には遅いともいえます。導入の可否に関わらず、予め環境の確認をしておきましょう。
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